弓(ゆみ)

弓道、あるいは弓術において使われる弓を和弓とし、アーチェリーの弓を洋弓と呼んで区別しています。
長さ七尺三寸(約221cm)を基本の長さ「並寸」とし、矢束(弓を引く長さ)85cmを基本の矢束として矢束に応じて二寸伸び(約227cm)、三寸伸び(約230cm)、四寸伸び(約233cm)、三寸詰め(約212cm)を使います。弓道教本一巻によれば、矢束91cm以上、身長170cm以上程度の人から伸び弓を使用します。
古来(弥生時代~)は「丸木弓」という一本の棒でしたが、平安時代中期に「伏竹弓(内竹に竹を使用)」、平安時代後期に「三枚竹弓(内竹、外竹が竹)」が登場します。その後、戦国時代に「四方竹弓(内竹、外竹、側木が竹)」となり、戦国時代末期に「弓胎弓(内部に竹籤を使用し、側木はハゼノキ)」となって、竹弓の形が完成しました。そして、昭和後半に入ってグラスファイバーを使用した弓が作られ始めます。
現在では、カーボンシートを使用した弓も作られており、グラスファイバーを含む弓を「グラス弓」、カーボンファイバーを含んでいる弓を「カーボン弓」、竹を主に使用した弓を「竹弓」と呼称しています。

グラス弓

木芯を数枚のグラスファイバーシート(GFRP:ガラス繊維強化プラスチック)で挟む事で復元力を増し、同時に曲げ弾性、捻れ剛性等を強化した事で、耐久性にも優れた性能を持っている弓です。試作が開始されたのは1963年(昭和38年)とされ、実際に使用された最初のグラス弓は、1967年(昭和37年)の第24回世界弓術選手権大会に出場した宮田純治氏(ミヤタ総業創業者)が、自ら和弓を改造した物です。その後、1971年(昭和46年)に小山雅司氏(小山弓具・八代目)が、第26回国民体育大会・和歌山で「純粋にグラス弓として開発された」和弓「直心」を発表。そして1973年(昭和48年)にミヤタ総業が創立、グラス弓の販売を始め、GFRPの価格低下によってグラス弓の価格が低下、多くのグラス弓が出回るようになりました。湿気等での変形が少ない事や、多くの回数の衝撃に耐えられる等の点から竹弓に比べ扱い易く、値段も竹弓に比べ安くなった事から、学生を中心に広く普及しています。ただし、材質の関係上竹弓ほどの軽さとしなやかさを持つ弓は少なく、また見た目の美しさ等から高段位の射手が用いる事はあまり無いようです。現在では、竹弓風に表面加工したグラス弓も販売されています。
主に使用されているのは、Eグラス(Electrical application glass:電気絶縁性ガラス)という無アルカリグラスで、汎用GFRPと呼ばれます。一部の弓(直心Ⅱが有名)にはSグラス(Strength glass:高強度ガラス)という、不純物を取り除き、シリカとアルミナ、カマグで組成したものを使用しています。

カーボン弓

グラスファイバーシートと木芯の間に、カーボンファイバーシートを挟む事で更に復元力や捻れに対する強さを増し、かつ軽くしてある弓です。ミヤタ総業の「MIYATA CG」や、小山弓具のカーボン竹弓「清芳」を起としています。グラス弓より優れた性能を持っていますが、価格もグラス弓より高い物となります。カーボンシートには種類があり、並列単層か、十字(クロス)に貼り合わせたカーボンシートが一般的ですが、ファイバー同士を編みこむ事で衝撃吸収力を高めたバイアスカーボン等が存在します。

竹弓

戦国時代に形が完成した「弓胎弓」、あるいは「四方竹弓」の技術を、現代まで受け継いだ弓師一族によって作製される弓です。伝統工芸品としての顔も持ちます。土地によって弓成りに違いがあり、大別して「京弓」「尾州弓」「紀州弓」「加州弓」「江戸弓」「薩摩弓」の6つとなります。現在の弓師一族で作製されているのは「京弓(柴田勘十郎など)」「薩摩弓(一燈斎など)」「都城弓(薩摩弓系。楠見蔵吉など)」「江戸弓(小山清芳など)」「松永弓(江戸弓に、京弓と薩摩弓の技術を含めたもの。肥後三郎など)」が知られています。古い弓も現存しており、江戸後期頃に作製された弓は今でも使用される弓道家がいます。
竹(マダケやモウソウチク)や黄櫨(ハゼノキ)の一本一本を選別し、数年かけて乾燥させ、竹籤は火入れをし、秘伝の膠(にかわ。鹿の皮に含まれるゼラチン)、または鰾膠(ニベ。スズキの仲間の魚の浮袋のゼラチン)で接着し、楔で裏反りを整え…といった数多くの工程を経て作製されます。そのため一張を打つのに期間が掛かり、価格も高くなるうえ、湿気や温度、使い方などの影響を受けやすい代物ですが、グラス弓にはない軽さ、しなり、弦音の良さといった数多くの特性を持ち、愛好家が多くいます。


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